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名古屋地方裁判所 平成3年(ワ)3758号 判決 1992年12月25日

反訴原告

北村宏

北村フミ子

右両名訴訟代理人弁護士

村上文男

右同

宮﨑直己

右両名訴訟復代理人弁護士

岩田宗之

反訴被告

松浦喬

松浦文春

右両名訴訟代理人弁護士

野田弘明

主文

一  反訴被告らは、連帯して、①反訴原告北村宏に対し、金三六四万〇〇一五円及び内金三三四万〇〇一五円に対する平成元年一月一五日から、②反訴原告北村フミ子に対し、金五七一六万四四一八円及び内金五四五六万四四一八円に対する平成元年一月一五日から、各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これ四分し、その一を反訴原告らの、その余を反訴被告らの負担とする。

四  この判決第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

反訴被告らは、連帯して、①反訴原告北村宏(以下原告宏という)に対し、一三三三万四五〇八円及び内弁護士費用を除く一二三八万九五〇八円に対する平成元年一月一五日から、②反訴原告北村フミ子(以下原告フミ子という)に対し、六八七三万〇〇一九円及び内弁護士費用を除く六五二八万五〇一九円に対する平成元年一月一五日から、各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告らが左記一1の交通事故を理由として、反訴被告松浦喬(以下被告喬という)に対し自賠法三条に基づき、反訴被告松浦文春(以下被告文春という)に対し民法七〇九条に基づき、それぞれ損害賠償を請求する事案である。

一争いのない事実

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成元年一月一五日午後一一時一〇分ころ

(二) 場所 静岡県浜松市馬郡町四一六三先路上

(三) 加害車両 被告喬保有、被告文春運転の普通乗用自動車

(四) 被害車両 原告宏運転、原告フミ子同乗の普通乗用自動車

(五) 態様 加害車両がセンターラインをオーバーし、対向車線を走行していた被害車両に正面衝突した。

2  被告らの責任原因(弁論の全趣旨)

被告喬は、加害車両を自己のために運行の用に供する者である。

被告文春は、運転操作を誤った過失により本件事故を惹起した。

3  原告らの損害(一部)

原告らは、後示遠州総合病院における治療費として、原告宏が九万五六〇〇円を、原告フミ子が三八四万六五二〇円を、それぞれ要した。

4  損害の填補

原告らは、本件事故による損害につき、原告宏が二七六万七五二〇円の、原告フミ子が九五四万三六三六円の、各支払を受け、それぞれその損害に充当した。

二争点

本件の主要な争点は、①原告らの治療・休業と本件事故との因果関係、②原告らの後遺障害の程度であり、当事者は、これらに関し次のとおり主張している。

また、被告らは、時効の抗弁を提出し、原告らは、これを争っている。

1  原告宏の治療、休業及び後遺障害について

(一) 原告宏の主張

同原告は、本件事故による頚椎捻挫等の傷害につき平成元年一月一五日から同年一一月一日まで通院治療を受け、同日症状固定したが、この間平成元年一月一六日から同年九月二〇日まで休業を余儀なくされたほか、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級一二級一二号に該当する頭痛等の後遺障害が残り、六七歳までその労働能力の一四パーセントを喪失した。

(二) 被告らの認否・反論

原告宏の治療・休業中平成元年七月一五日以降の分については、本件事故との因果関係を否認する(同日以前も全日を休業したものではない)。後遺障害の存在・程度は争う。

原告宏の頚椎捻挫は、本件事故から六ケ月経過までに治癒ないし症状固定している。また、仮に後遺障害があるとしても、他覚的な神経学的所見がないから、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級一四級に該当するに過ぎない。

2  原告フミ子の治療、休業及び後遺障害について

(一) 原告フミ子の主張

同原告は、本件事故による外傷性小腸断裂、助骨骨折等の傷害につき、平成元年一月一五日から同年一二月一七日まで入院治療を受け、同年一二月一八日から平成二年一一月一三日まで通院治療を受けて、同日症状固定したが、この間平成元年一月一六日から右症状固定日まで休業を余儀なくされた。

更に、原告フミ子は、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級五級三号に該当する肝機能障害、瘢痕ヘルニヤ等の後遺障害が残り、六七歳までその労働能力の七九パーセントを喪失したほか、症状固定後もなお治療を必要とし、現に平成二年一一月一四日から平成四年六月三〇日まで入院治療を受けたが、これについても本件事故との因果関係がある。

(二) 被告らの認否・反論

原告フミ子の治療中平成二年七月一日以降の分については、本件事故との因果関係を否認し、休業損害はすべて否認する。後遺障害の程度も争う。

原告フミ子の傷害は、遅くとも平成二年六月三〇日までに治癒ないし症状固定している。また、同原告の肝炎が増悪している証拠はなく、腹壁損傷は胸腹部臓器の障害とはいいがたいから、その後遺障害は、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級九級一一号か、せいぜい同等級七級五号に該当するに過ぎない。

3  時効について

(一) 被告らの主張

原告らの請求中、反訴状で請求の分を超える部分は、本件事故発生から三年経過後の平成四年七月二九日初めて請求されたもので、すでに時効により消滅している。被告らは右時効を援用する。

(二) 原告らの反論

右主張は争う。消滅時効は中断している。

第三争点に対する判断

一原告宏の治療、休業と本件事故との因果関係及び後遺障害の程度

1  本件治療経過及び現在の症状等

前示争いのない事実、<書証番号略>、証人丸田守人、原告宏本人、鑑定の結果(原告宏分)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告宏は、平成元年一月一五日本件事故により顔面・頭部・胸部挫傷、脳挫傷疑い(疑いに止まることについては、鑑定の結果参照)、顔面・口唇・右膝蓋部挫創、頚椎捻挫、左下肢知覚異常の傷害を負い、①平成元年一月一五日から同年二月一七日まで遠州総合病院で通院治療を受け(実通院日数一四日間)、②同年二月一五日から現在まで山崎病院で通院治療を受けている(内同年一二月三〇日までの通院実日数二五二日間)。

(二) 原告宏は、右治療中から現在までX線・CT撮影検査、脳波測定等では格別の異常が認められず、他覚的な神経学的所見も認められていないものの、平成元年一月二三日ころから時々頭痛を訴え始め、一旦かなり回復して次項(三)のとおり一旦就労したが、同年四月下旬から頭痛が増強し、更に手の震え、眩暈等の自覚症状を訴えるようになった。同原告は、これらの症状に対し点滴等の治療を受けたが、効果があがらず、頭重感、頭痛、膝部鈍痛等の不定愁訴が続き、その後同年一一月一日ころから実質的に同一内容の治療を受けているにもかかわらず、現在まで同様の頭重感、頭痛、膝部鈍痛等の愁訴が残存している。なお右愁訴の内容・程度には日差があり、天候にも影響を受ける状態である。

(三) 原告宏は、本件事故当時五二歳(昭和一一年七月一〇日生)で、いわゆる持込みのトラック運転手として岩崎産業株式会社で就労していたが、本件事故後平成元年一月一六日から四月二〇日まで九五日間休業し、一旦就労した後、右(二)のとおり症状が増強し、山崎病院の担当医から重労働や集中力を要する作業の継続が困難と判断されて、同年六月一四日から七月一三日まで及び同年八月一四日から九月二〇日までの合計六八日間、再度休業した。

2  当裁判所の判断

(一) 治療・休業との因果関係について

右1認定の治療経過及び証人丸田守人、鑑定の結果によれば、原告宏は、本件事故で、体表のみならず筋肉等の深部組織にも一定の挫傷を負っていたと考えられるところ、同原告が重傷の原告フミ子の付添等に奔走し、自らは充分な安静治療が受けられなかったため、その治療が遷延し、結局愁訴及び治療の内容が固定した平成元年一一月一日ころようやく症状固定に至ったものと認めるのが相当である。したがって、右事情に相当の安全性を要求される原告宏の職務内容も併せ考慮すれば、この間の治療・休業(休業期間合計一六三日間)の全部について本件事故との因果関係を認めることができる。

これに対し、<書証番号略>(横浜市立大学医学部法医学教室助教授津田征郎医師作成の意見書)には、原告宏の傷害は、前示深部組織の挫傷等を含め本件事故後六ケ月経過ころまでに完治したものと考える旨の記載があるが、その内容を検討すると、単に挫傷一般の治療経過を当てはめた結論にすぎないものと認められ、右治療遷延の事情を充分に考慮しているか疑問があり、反対趣旨の前示鑑定等にも照らし、直ちに採用することができない。

(二) 後遺障害の程度について

この点につき、証人丸田守人は、原告宏の前示後遺障害が自賠法施行令二条別表後遺障害別等級一二級一二号の頑固な神経症状に該当する旨証言し、鑑定(原告宏分)中にも同趣旨の部分があるが、前示のとおり、右後遺障害には他覚的な神経学的所見が認められないから、直ちに右判断を採用することができない(障害等級認定基準―労働省労働基準局長通達昭和五〇年九月三〇日基発五六五号―第2、5(2)参照)。

結局、前示1(二)認定の障害の内容・程度及び原告宏が前示深部組織の挫傷等の傷害を受けていることを考慮すると、その後遺障害は、同等級一四級に該当する程度のもので、原告宏は、これにより症状固定時の五三歳から二年間わたって労働能力の五パーセントを喪失したと認めるのが相当である。

二原告宏の損害額

1  治療費(請求一一四万一三四〇円)

一〇九万七四八四円

原告宏の前示一1(一)認定の通院治療中平成元年一一月一日までの分については、前示一2(一)認定のとおり、本件事故との因果関係を認めることができる。

原告宏が右期間中の遠州総合病院での治療費として九万五六〇〇円を要したことは当事者間に争いがない。右期間中の山崎病院での治療費の内、(a)平成元年二月一五日から八月三一日までの分は合計八六万九九〇〇円である(<書証番号略>)。他方、(b)山崎病院における同年九月一日から右一一月一日までの治療費については、これを正確に認定するだけの証拠がないが、同病院での平成元年九月一日から一二月三〇日までの治療費は、三二万九九六〇円であるから(<書証番号略>)、右(b)の期間の治療費については、これを控え目に、右金額の四割に相当する一三万一九八四円と推認することとする。

以上を合計すると、原告宏の治療費総額は一〇九万七四八四円となる。

2  休業損害(請求三二九万九二二六円)

二六九万七八〇六円

<書証番号略>、原告宏本人によれば、同原告は、前示岩崎産業からトラック持込みによる就労の報酬として、昭和六三年中に合計一一一一万〇一七七円の支払を受けていたことが認められる。

ところで、原告宏が右報酬を得るのに要した経費については、これを正確に認定するだけの証拠がないから右報酬金額から経費を控除する方法で直接本件事故当時の同原告の収入を算定することはできないが、右金額及び就労形態に照らせば、原告宏は、本件事故当時、平成元年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計の五〇歳ないし五四歳の男子労働者の平均年間給与額六〇四万一一〇〇円を下らない収入を得ていたものと推認できる。

そこで、右金額を基礎として、前示一2(一)認定の休業期間一六三日間の休業損害を計算すると、次のとおり二六九万七八〇六円となる。

6,041,100÷365×163=2,697,806

3  通院慰謝料(請求一三〇万五〇〇〇円)

前示受傷部位・程度、治療期間・経過等に照らせば、右金額が相当である。

4  後遺障害逸失利益(請求七三六万二六二八円)

五六万二二四五円

前示2採用の基礎収入金額六〇四万一一〇〇円を基礎とし、前示一2(二)認定の労働能力喪失状況を適用して逸失利益を算定し、これを年五分の割合による新ホフマン係数を使用して本件事故当時の現価に引き直すと、次のとおり五六万二二四五円となる。

6,041,100×0.05×1.8614=562,245

5  後遺障害慰謝料(請求二一七万円)

七五万円

前示認定の後遺障害の内容・程度等を勘案すると、右金額が相当と認められる。

6  損害の填補

以上の損害は、合計六一〇万七五三五円であるところ、これから原告宏が損害の填補を受けたことに争いがない二七六万七五二〇円を控除すると、残額は三三四万〇〇一五円となる。

7  弁護士費用

三〇万円

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らせば、右金額が相当である。

8  以上合計

三六四万〇〇一五円

三原告フミ子の治療、休業と本件事故との因果関係及び後遺障害の程度

1  本件治療経過及び現在の症状等

前示争いのない事実、<書証番号略>、証人丸田守人、原告宏本人、鑑定の結果(原告フミ子分)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告フミ子は、平成元年一月一五日本件事故により右第四・五及び左第一助骨々折、胸部挫傷、外傷性小腸断裂、膵臓・肝臓・尿路損傷、腹直筋断裂の傷害を負い、同日遠州総合病院に入院して右断裂した小腸の切除・吻合手術等の治療を受けたが、その後細菌感染を起こして敗血症、重症感染症に罹患し、このため腹壁創(複数)の縫合部も正常に癒合せず、肉芽形成不良から腹壁組織に欠損が発生して広範な腹壁欠損肉芽創となり、この状態で同年二月二〇日同病院を退院した(入院期間三七日間)。

(二) 原告フミ子は、続いて同日から山崎病院に入院して前示創傷・骨折等に対する治療を受けたが、前示手術時の輸血に伴うC型肝炎ウィルス感染及び輸血性肝炎による続発性肝機能障害が発生し、これが増悪軽快を繰り返しながら最終的に慢性C型肝炎に移行した(この間増悪時には、肝機能障害の程度を示すGOT、GPTの値が三〇〇単位以上にのぼっている)。そのほか、平成元年八月ころ腹部の創傷に伴う左腰瘻孔が発生し、更に同年一一月ころから前示腹壁欠損による腹壁瘢痕ヘルニア及び筋萎縮が進行し、原告フミ子は、これら傷病のため頭痛、頭重感、眩暈、胸部圧迫感、左側腹部痛、腹部膨満感、下肢痛、全身倦怠・脱力感等の症状を訴え、特に座位及び立位を取ると腹痛、疲労感が増強するようになった。右各症状に対しては、リハビリテーション等の治療が行われたが、原告フミ子は、自覚症状にほとんど変化のないまま同年一二月一七日同病院を退院した(入院期間三〇一日間)。

(三) 原告フミ子は、その後同年一二月一八日から平成二年一一月一三日まで同病院に通院して治療を受けたが(通院実日数一四七日間)、この間平成二年一月腹部の創傷に伴う左下腹部瘻孔が再発し、これは同年五月に閉瘻したものの、前示肝機能障害及び腹壁瘢痕ヘルニアは軽快せず、左下腹部痛、頭痛、脱力感、歩行時の倦怠感などの症状が続いた。これらの症状に対し同年一〇月五日から毎日点滴治療が行われ、更に同原告は、同年一一月一三日から再度同病院に入院して平成四年六月三〇日まで続発性肝機能障害、慢性C型肝炎等に対する治療を受けたが(ただし入院期間は、右期間中の五九〇日間のみである)、この間の治療内容に実質的な変化はなくなっている。

(四) 現在原告フミ子の腹部創傷は、前示平成二年五月の左下腹部瘻孔の閉瘻により表面上治癒しているが、内部の腹壁瘢痕ヘルニアは、修復困難な高度の腹壁萎縮を伴い、現在も病状が徐々に進行している。仰臥位では、これによる腹腔内臓器の脱出は著しくなく、また座位及び立位を取ること自体は不可能ではないものの、このような姿勢を取ると、しばらくして小腸・大網等の腹腔内臓器の腹腔外への著しい脱出と下垂を生じ、強度の不快感等が誘発され、仰臥位に戻ることを余儀なくされている。

また、同原告の慢性C型肝炎に伴う続発性肝機能障害は、増悪軽快を繰り返しながら全体的に悪化しており、現在相当の全身倦怠感を生じさせているが、更に徐々に悪化しつつあり、将来肝硬変に移行する公算が高いほか、肝癌になる可能性もあり、その場合生命の危険もあり得る状態である。

(五) 原告フミ子は、本件事故当時五二歳(昭和一一年四月二五日生)で、本件事故当時原告及び二人の子らと同居し、主婦として家事をしていたが、本件事故による受傷のため前示各入院期間中は、まったく家事を行うことができず、また前示(三)の通院期間中も、大半の時間を寝て過ごし、家事も行わず、外出もほとんどしない状態であった。

2  当裁判所の判断

(一) 治療・休業との因果関係について

(1) 右1認定の治療経過等及び証人丸田守人、鑑定の結果(原告フミ子分)によれば、原告フミ子は、本件事故による受傷の結果、主要な合併症として腹壁瘢痕ヘルニア及び慢性C型肝炎を併発したところ、これらの合併症は、現在もなお症状が徐々に進行しているが、他方、山崎病院に最後の入院をした平成二年一一月一三日の時点では、前示1(四)認定のとおり、表面上腹部の創傷が治癒し、慢性C型肝炎及び続発性肝機能障害に対する治療内容も固定化していると認められるから、この時点をもって一応症状固定ととらえ、これ以降の症状は、本件事故の後遺障害として評価するのが妥当と考えられる。

そして、前示治療経過及び就労状況も考慮すれば、原告フミ子は、本件事故翌日の平成元年一月一六日から右平成二年一一月一三日までの一年三〇二日間、その労働能力のすべてを喪失したと認めるのが相当である。

(2)  また、右(1)認定の事情並びに前示治療経過等のほか、前示1(四)認定の事実及び証人丸田守人によれば、原告の慢性C型肝炎が増悪して肝硬変、肝癌に移行するのを遅滞させる目的で、現在なおいわゆる肝庇護措置等の治療を継続する必要が認められるから、この事情も併せ考慮すれば、原告フミ子の前示治療中、①本件事故が発生した平成元年一月一五日から右症状固定した平成二年一一月一三日までの入通院治療のすべてにつき、その必要性を認めるべきであるのみならず、②その後平成四年六月三〇日まで行われた入院治療についても、大部分が続発性肝機能障害、慢性C型肝炎に対する治療に充てられたと窺われる事情を考慮して、その八割を本件事故と因果関係のある治療と認めるのが相当である(なお、腹壁瘢痕ヘルニアにも、もはや有効な治療が行われているとは認めがたい)。

(3) これに対し、<書証番号略>には、本件事故による原告フミ子の傷害が平成二年六月に症状固定している旨の記載があるが、その内容を検討すると前示腹壁瘢痕ヘルニア及び慢性C型肝炎の存在を考慮していないのが明らかであるから、これによって容易に前示認定を左右することはできない。

(二) 後遺障害の程度について

前示認定の原告フミ子の後遺障害の内容・程度及び証人丸田守人によれば、現在同原告は、長時間の立ち仕事及び座り仕事を行うのは困難な状態であるほか、将来症状悪化により更に就労の範囲・時間を制限される公算が高いと認められるから、この事情に照らせば、右後遺障害は、これを胸腹部臓器の障害と呼ぶかは別にして、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級五級に該当する程度に達しているというべきであり、同原告は、これにより症状固定時の五四歳から六七歳までの一三年間にわたって平均して労働能力の七九パーセントを喪失したと認めるのが相当である。

これに対し、<書証番号略>には、右後遺障害が同等級一〇級該当の程度にすぎない旨の記載があるが、やはり前示(一)(3)と同様の理由で右認定を左右できない。

四原告フミ子の損害

1  治療費(請求二三八九万四四一〇円)

二一四三万二七八八円

原告フミ子の前示三1(一)ないし(三)認定の入通院治療中、①平成元年一月一五日から平成二年一一月一三日までの入通院治療のすべてと、②その後平成四年六月三〇日まで行われた入院治療の八割については、前示三2(二)(2)認定のとおり、本件事故との因果関係を認めることができる。

原告フミ子が右①の期間中の遠州総合病院での治療費として三八四万六五二〇円を要したことは当事者間に争いがない。原告フミ子が(a)平成元年二月二〇日から平成二年九月末日まで、及び(b)平成三年一月一日から平成四年六月三〇日までの山崎病院での治療費として要した金額は、それぞれ七六〇万一七六〇円及び一〇九七万七九七〇円である(<書証番号略>)。

他方、山崎病院における(c)平成二年一〇月から前示同年一一月一三日まで、及び(d)翌日の平成二年一一月一四日から同年末までの各治療費については、これを正確に認定する証拠がないが、同病院での平成元年一〇月二日から一二月三一日までの治療費は一四七万二一六〇円であるから(<書証番号略>)、右金額を一割と九割に按分した一四万七二一七円と一三二万四九五三円をもって、右(c)(d)の各期間の治療費と推認することとする。

したがって、以上の金額を基礎に計算すると、原告フミ子の治療費総額は、次のとおり二一四三万二七八八円となる。

3,846,520+7,601,760+142,170+(1,324,953+10,977,970)×0.8=21,432,788

2  付添看護費用(請求二九万七一一六円)

一八万円

<書証番号略>によれば、原告フミ子は、山崎病院に入院中の平成元年二月二〇日から三月三一日まで四〇日間付添看護を必要としたと認められるところ、その費用としては、一日当たり四五〇〇円を要したものと認めるのが相当である。

3  入院雑費(請求一二〇万五一〇〇円)

六四万八九〇〇円

前示三1(一)ないし(三)認定の入院日数合計九二七日間につき、一日当たり七〇〇円が相当である。

4  休業損害(請求四三四万四三九三円)

五一一万五七九八円

前示三1(五)認定の就労状況等に基づけば、原告フミ子の休業損害は、本件事故が発生した平成元年の賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計の五〇歳ないし五四歳の女子労働者の平均年間給与額二七九万九五〇〇円を基礎として算定するのが妥当であり、これによって前示三2(一)(1)認定の一年三〇二日間の休業損害を計算すると、次のとおり五一一万五七九八円となる。

2,799,500×(1+302/365)

=5,115,798

これに対し、被告らは、原告フミ子が主婦であるから休業による損害が発生しないと主張するが、独自の見解であり採用することができない。

5  入通院慰謝料(請求三〇七万円)

二八〇万円

前示受傷部位・程度、治療期間・経過等に照らせば、右金額が相当である。

6  後遺障害逸失利益(請求二〇三四万一一一六円)

二一三三万〇五六八円

前示三2(1)認定のとおり、原告フミ子の症状が一応固定したと認められる平成二年の賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計の五〇歳ないし五四歳の女子労働者の平均年間給与額二九六万〇八〇〇円を基礎とし、前示三2(二)認定の労働能力喪失状況を適用して逸失利益を計算し、更にこれを年五分の割合による新ホフマン係数を使用して本件事故当時の現価に引き直すと、次のとおり二一三三万〇五六八円となる。

2,960,800×0.79×(10.9808−1.8614)=21,330,568

7  後遺障害慰謝料(請求一三八三万円)

一二六〇万円

本件事故の態様、後遺障害の内容・程度等を勘案すると、右金額が相当と認められる。

8  損害の填補

以上の損害は、合計六四一〇万八〇五四円であるところ、これから原告フミ子が損害の填補を受けたことに争いがない九五四万三六三六円を控除すると、残額は五四五六万四四一八円となる。

9  弁護士費用(請求三四四万五〇〇〇円)

二六〇万円

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らせば、右金額が相当である。

10  以上合計

五七一六万四四一八円

五時効の主張に対する判断

原告らの時効中断の主張について検討する。

本件事故が平成元年一月一五日発生したことは争いがないが、本件記録によれば、原告らは、被告らから、本件事故による損害賠償債務が原告宏につき七六万円、原告フミ子につき二四六万九六〇〇円を超えないことを理由として提起された債務不存在確認請求事件(当庁平成二年ワ第三〇二五号。本件の本訴事件)において、右事実発生の日から三年が経過する以前の平成二年一一月二八日その口頭弁論期日で、いずれも請求棄却の裁判を求める旨の答弁をし、その理由として、右債務額が被告ら主張の金額を超える旨を主張していると認められるところ、右主張に理由があることは、前示一ないし四の判断のとおりである。

そうすると、本件損害賠償債務は、右請求棄却の答弁により、その全部につき時効の進行が中断しているから、原告らの主張には理由があり、右債務の時効消滅は認められないというべきである。

六結論

以上の次第で、原告らの請求は、被告らに対し、連帯して、①原告宏が三六四万〇〇一五円及び内弁護士費用を除く三三四万〇〇一五円に対する平成元年一月一五日から、②原告フミ子が五七一六万四四一八円及び内弁護士費用を除く五四五六万四四一八円に対する平成元年一月一五日から、各支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官夏目明德)

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